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「初代LSの衝撃を超えるクルマにしてください」

新型『LS』の開発責任者である旭CEは、マスタードライバーであり社長である豊田章男氏から、そうリクエストされたという。

初代とは、1989年にアメリカでデビューした「レクサスLS400」のことを指す。圧倒的な静粛性で、世界をアッと言わせたのはこのモデルのことである。

豊田社長も無理難題をふっかけるものだと思ったものだ。リクエストというより、もはや命令である。初代は世界史に残る傑作品なのであるから、そう簡単に超えられる頂きではない。

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「初代LSの衝撃を超えるクルマにしてください」 新型『LS』の開発責任者である旭CEは、マスタードライバーであり社長である豊田章男氏から、そうリクエストされたという。 初代とは、1989年にアメリカでデビューした「レクサスLS400」のことを指す。圧倒的な静粛性で、世界をアッと言わせたのはこのモデルのことである。 豊田社長も無理難題をふっかけるものだと思ったものだ。リクエストというより、もはや命令である。初代は世界史に残る傑作品なのであるから、そう簡単に超えられる頂きではない。 とはいうものの、新型LSは、多くの点で初代を超えている。 まず、伝説の起点となった静粛性は、ライバルを圧倒している。特にエンジン音は、ほとんど音源を耳にできないほど静かだ。 レクサス LS500h エグゼクティブ だが、静粛性は驚くほど高いのに、力強く加速させると、心地よいサウンドが響く。あまりにしずかなのも不気味だからなのだ。 新型には2タイプのパワーユニットが用意されている。V型6気筒3.5リットルターボ+10速AT。3.5リットルハイブリッドには、擬似的に変速を可能にする10速ATが組み合わされる。 パワーは十分に力強く、特にハイブリッド仕様の、回転が先走りするラバーフィールが抑えられているのが嬉しい。まるでツインクラッチ仕様のごとく、途切れない変速リズムが得られるのが特徴なのだ。そこに、心地いいサウンドが加わる。そう、新型LSは、後席で安楽にくつろぐだけのショーファードリブンではなく、ステアリングを握っても快感なのである。 ドライバーズカーとしての資質は、ハンドリングにも現れている。全長は25mm長くなり、全高は15mmダウン、全幅は25mm広げられている。つまり、前後に長く幅広く、それでいて低いプロポーションだ。 レクサス LS500h エグゼクティブ さらには、そのボディには新開発のGA-Lプラットフォームが基本となっている。前後重量配分が理想的であり、タイヤが四隅に配されるそれによって、乗り心地がいいのに、軽快なハンドリングが得られるのだ。 電子制御エアサスは、路面との凹凸を、拍子抜けするように消し去ってしまう。試乗を共にしていた仲間と、目の前に現れた大きな突起に身構えたら、何事もなかったように通過してしまって二人で顔を見合わせて「あれっ!?」。サスが吸収して伝えないのだ。 であるにもかかわらず、良好なハンドリングが滲み出る。上下動は優しいのに、不快なロールを規制するし、ヨーゲインが素直なのは、小手先のチューニングではなく、プラットフォームを刷新した効果に違いない。 ちなみに、後席の作り込みは、国際線ファーストクラス並の気配りである。前後ともマッサージ機能付きであり、マークレビンソンの高級オーディオは23個のスピーカーを内蔵。ほとんどコンサートホールである。ホイールベースを延長したことで、旧型の「ロング」仕様を超える広さになった。足元も広々である。 レクサス LS500h エグゼクティブ 後席でうたた寝しながらの移動も夢に見たいけれど、ハンドリングカーとしての資質にも浸ってみたい。さて、足を伸ばして移動するかステアリングを握るか。意地悪な悩みである。 もはや新型LSは、レクサスの最高級セダンというより、日本が世界に誇るフラッグシップである。それはハンドリングとコンフォートという、相反する性能を高い次元で両立してみせたことを一つの特徴とする。これこそ、初代を超える衝撃なのだろうと思えた。 ■5つ星評価 パッケージング:★★★★★ インテリア/居住性:★★★★★ パワーソース:★★★★ フットワーク:★★★★★ オススメ度:★★★★★ 木下隆之| モータージャーナリスト プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。