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Ryzen旋風――Ryzen 7とRyzen 5、それぞれ深夜販売で登場

 2017年を通して最も影響力の大きかったCPUを挙げるとすれば、AMDから登場した「Ryzen」だろう。3月3日に上位の「Ryzen 7」シリーズが売り出されたが、当日TSUKUMO eX.とパソコン工房 秋葉原BUYMORE店、ドスパラ パーツ館の3店が深夜販売を実施するなど、ここ数年のAMD製CPUでは例がないほど鳴り物入りでのデビューだった。

2月末に撮影したTSUKUMO eX.のRyzen深夜販売POP

 当時、ドスパラ パーツ館は「AMDのCPUとしては近年まれに見るレベルで注目されていますし、入荷数も深夜販売がやれる量がきちんと確保できる状態なので踏み切りました」とコメント。その前評判通りに、発売後は対応するX370/B350マザーともども大ヒットを記録した。売れ行きは2006年発売の「Athlon 64 X2」以来との評が多く、ベテラン店員氏からは「10年に一度の逸材」とのフレーズも飛び出している。

 最初期は対応マザーの在庫不足が目立ったがまもなく落ち着き、3月中旬からしばらくはコストパフォーマンスの良さから人気が突出した「Ryzen 7-1700」(登場時は税込み4万2000円前後)だけが品薄な状態が続いた。それでも売れ行きは好調で、4月初旬にCPUの売れ行きを聞くと「AMD4割、インテル6割」と返ってくるショップが多かったと記憶している。「1割にも満たない」と言われたいた2016年頃から大幅な躍進だ。

Ryzen 7-1700X(左)と1700(右)。1700はCPUクーラー同梱で最安モデルという強みがあった

ASRockのX370マザー「Fatal1ty X370 Gaming K4」。税込み3万7000円前後で登場した

 その好調ぶりは、4月11日に下位の「Ryzen 5」シリーズが発売された後も続いた。このクラスでは珍しく、複数のショップが深夜販売イベントを実施しており、Ryzen 7ほどではないにしろまずまずの反響が得られたという。

 さらに7月下旬になると、エントリークラスの「Ryzen 3」もデビュー。下位ラインアップの「Ryzen 3-1200」(税込み1万5000円前後)でも4コア/4スレッド(TDP 65W)の仕様で、「mini-ITXサイズのRyzenマシンを組みたい人も多いので、小型で安価にそこそこのパフォーマンスが狙える理にかなったラインアップ」(パソコンSHOPアーク、当時)と評価されていた。

 その後もRyzenシリーズは、IntelのCoreシリーズに対抗する選択肢として定番の地位を確立しており、各ショップのシェアは売れ行きが落ち着いた年末ごろでも「AMD2~3割、Intel7~8割」というバランスを維持。それに対してライバルのIntelも静観していたわけではなかった。

4月初旬、Ryzen 5の深夜販売を告知するTSUKUMO eX.のPOP

4月末にはBIOSTARからRyzen対応の初のmini-ITXマザー「X370GTN」と「B350GTN」が登場している。税込み価格は1万5000円前後と1万3000円強

7月に登場した「Ryzn 3-1300X」と「Ryzen 3-1200」

Kaby LakeとCoffee Lake――Intelは2世代のCoreシリーズを投入

 Intelは、年明け早々の1月6日に「Kaby Lake-S」こと第7世代CoreシリーズとIntel 200シリーズチップセット搭載マザーを投入した。これまでの世代と同じように最上位の「Core i7-7700K」(当時税込み4万7000円前後)が一番人気となり、プラットホームを牽引していくことになる。

 「Skylake-S」こと第6世代からスムーズに移行が進んだが、その過程でOSの選択肢はWindows 10のみに絞られていった。これは第7世代Coreと対応マザーの公式な対応OSがWindows 10 64bit版のみとなるため(※Ryzenも同様)。回避策もあるにはあるが、すでに2016年下旬時点で店頭でのOSの売れ行きはWindows 10に集中する傾向があったため、2014年のXP終了前後の頃のような混乱はみられなかった。

 当時、パソコン工房 秋葉原BUYMORE店は「手持ちの7/8.1をインストールしたいというニーズはやはり根強くて、その場合は保守パーツとして旧世代を確保することをお勧めしています。今年が終わるころには7もレガシー化しているんじゃないかと思います」と話していた。

パソコン工房 秋葉原BUYMORE店の第7世代Coreシリーズ発売POP

2月初旬には初の“Kつきi3”こと「Core i3-7350K」(税込み2万5000円前後)も登場。OC用として話題を集めた

旧世代のCPUとマザーも比較的長期間併売され、対応マザーには「Windows 7導入に」といったPOPもみられた

 それから10カ月に渡って自作PCのメインストリームを支えていたが、11月2日は「Coffee Lake-S」こと第8世代Coreシリーズと、対応するZ370マザーが登場し、2017年のうちに世代交代を迎えることになる。Coffee Lake-Sは最上位の「Core i7-8700K」(税込み4万8000円前後)が6コア/12スレッド構成になるなど、全体的にコア数が底上げされているのが特徴だ。

 発売当初からまずまず順調に売れてはいるものの、底値となった第7世代Coreと対応マザーの在庫が残っている状態で、新ラインアップの「Core i7-8700」と「Core i5-8600K」「Core i5-8400」(税込み価格は4万円前後/3万3000円前後/2万3000円前後)が極端な品薄に陥っており、年初ほどの滑らかなバトンタッチは年末にいたるまで実現していない。

 その背景について、某ショップはこう語る。「Coffee Lakeはロードマップを前倒しして投入されましたが、その背景にはRyzenの台頭があるといわれています。ライバルに対抗すべく手を打ったものの、生産ペースは上げられないので、ひとまずは一番人気になるであろうi7-8700Kの製造に集中したというウワサもありますね」。いずれにしろ、Intel一強だったここ数年ではみられない動きなのは確かだ。そのあたりの事情はハイエンドCPUもよく似ている。

11月2日に一斉発売となった第8世代Coreファミリー

11月初旬に撮影したTSUKUMO eX.のマザーボード売り場。Intel 100/200/300シリーズのモデルが見つかる

12月、ドスパラ秋葉原本店ではCore i5-8400Kのバルク品をCPUクーラーとセットで販売。リテール品が十分に確保できないゆえの商品といえる。税込み3万3771円

Core XとRyzen Threadripper――ハイエンドCPUの競り合いも激しかった2017年の夏

 夏場からCoffee Lake-Sが登場するまでの期間は、CoreシリーズやRyzenの上にあるハイエンドプラットホームが元気だった。

 先行したのはIntel側だ。6月末にX99チップセットの後継となるX299チップセット搭載マザーボードが各社から登場し、一歩遅れて7月中旬から下旬にかけて対応CPU「Core X」シリーズが店頭に並んだ。10コア/20スレッド/44レーンの最上位機「Core i9-7900X」(税込み12万5000円前後)から、4コア/4スレッド/16レーンで最下位の「Core i5-7640X」(税込み3万1000円前後)まで幅広い仕様をそろえている。

 ハイエンド系ゆえに爆発的な売れ方はせず、「X99からの乗り換えの方を中心にじわじわ広まっていく感じでいくでしょう」(ドスパラ パーツ館、当時)といった構えのショップが多勢だった。

X299マザーは6月26日販売解禁で、写真のTSUKUMO eX.のように一足早く棚に置かれた

Core Xシリーズは上位の「Skylake-X」が7月14日、下位の「Kabylake-X」は約1週間遅れの7月下旬に売り出された

 対するAMD側は、8月10日にCPU「Ryzen Threadripper」と対応するX399マザーを販売している。CPUのラインアップは上位「1950X」と下位「1920X」の2種類で、登場時の税込み価格は15万8000円前後と12万5000円前後。Core Xをしのぐ価格だが、Ryzenのヒットを受けて期待が高まっていたこともあり、こちらは予約時点で目立って好調だったと語るショップが多かった。

 ところが発売からわずか2週間で大幅値下げが敢行され、税込み価格は13万8000円前後と11万1000円前後となる異常は事態が発生してしまう。国内正規代理店版よりも直輸入サイトで購入したほうが安上がりになるという状況を改善するための措置といわれている。初回に購入したユーザーに対しては日本法人が差額分のQuoカードを送るなどの対応がみられたが、せっかくの勢いに水を差した感は否めなかった。

CPUクーラー同梱で売られている「Ryzen Threadripper」

8月末の価格改定後、写真のパソコン工房 秋葉原BUYMORE店のように、初回購入者への対応を張り出す光景がみられた

 こうしてハイエンド市場の動静は夏場に一旦落ち着いたが、10月に入ってIntel側がもうひと波起こす。Core Xシリーズには、i9-7900Xの上を行く3モデルが開発当初から予定されており、それらを10月25日に投入。最上位の「Core i9-7980XE」は18コア/36スレッド/44レーンで、予価は税込み24万6000円前後だった。

 このウルトラハイエンドな仕様に対応すべく、10月初旬から電源周りを強化した“XE対応”のX299マイナーバージョンアップマザーが各社から出回るようになる。それらの反響はあまり大きくなかったものの、発売日になるとどこのショップも好調だと口にしていた。「この領域までくると分かる人が静かに買っていくという感じになるんだと思います」(TSUKUMO eX.)とのことだ。

10月26日に売り出された「Core i9-7980XE」

XE対応となったASRockのX299マザー「X299 Taichi XE」。税込み4万7000円弱と、XEなしの標準モデルより2000円ほど高くなっている

ストレージの進化――12TB HDDが登場し、3D NAND SSDが台頭

 最後にストレージの動向を振り返ろう。

 2016年秋から続く値上がり傾向は、当時懸念されていたとおり2017年を通してのものとなったが、その中でもHDDは比較的落ち着いており、10月末に4TB HDDが週末特価で税込み8580円となるなど、大容量モデルはじわじわと買いやすくなっている。また、9月初旬にはHGSTからサーバ向けの12TBモデル「Ultrastar He12 HUH721212ALE600」(税込み7万5000円前後)が登場し、およそ1年半ぶりに1台あたりの最大容量を更新した。

 その後、10月に入ってNAS向けの12TB HDDも登場。購入層にコンシューマーも含まれるラインアップが少しずつ増えている。この「法人向け先行、個人向け後発」の構図は2017年に入ってより顕著になったという声もある。10月ごろにTSUKUMO eX.は「データはローカルではなくクラウド、つまり企業側に集まる流れになっているので、個人よりも企業がより大容量で高速なストレージを求める傾向が強まっていますから」と解説していた。

10月末に撮影したパソコン工房 秋葉原BUYMORE店の週末特価POP

10月初旬に登場したSeagate「IronWolf」と「IronWolf PRO」の12TBモデル。税込み価格は6万円弱と6万5000円弱

光学ドライブは2月中旬に、世界初のUHD BDドライブがパイオニアから登場している。写真の「BDR-S11J-X」は税込み3万2000円前後だった

 一方、原価ベースで値上がり傾向が収まらないSSDは、製品の切り替え時の在庫を安く大量に仕入れるなど売り手側の自衛策が功を奏し、春頃からは店頭価格ベースでみれば横ばいに近い状態を維持している。

 製品切り替えの過程で、3D NANDなどを採用したシリーズが主流化し、前世代のモデルが週末特価の目玉になるといったシーンが多かったように思う。とりわけ秋には、データセンター向けやサーバ向けといった法人仕様の高級SSDが放出特価となって目立っていた。当時、オリオスペックは「最近になってガクンと値段が落ちたモデルがいくつかあって、コンシューマー向けと変わらない値段になったので、新たなニーズを喚起するかなと思って仕入れてみました」と話していた。予想は的中に、年末まで断続的にラインアップを加えていた。

 新製品としては、コンシューマー向けで初めて3D Xpointメモリを採用したIntelの「Optane SSD 900P」シリーズが記憶に新しい。11月中心、PCIe x4接続の480GBモデル「SSDPED1D480GASX」(税込み7万6000円前後)を中心に3モデルが登場し、すぐに売り切れるほどの反響があった。

4月中旬には、長らく品薄だったサムスンのM.2 NVMe SSD「960 PRO/EVO」(2016年12月発売)がスポットで大量入荷している

法人向けSSDの特価品が並ぶオリオスペックの価格表。9月中旬に撮影

11月に登場したインテルの「Optane SSD 900P」シリーズ。パソコンSHOPアークで撮影

 最後に2017年のアキバの景色を振り返ると、5月末までソフマップ秋葉原本館として営業していたビルが6月に「ビックカメラAKIBA」として生まれ変わり、10月下旬にドスパラ各店が再編されるなどの動きがあった。

 それでも街をいく人の多さは相変わらずで、PCパーツショップ各店のフロアも一年を通して賑やかだったと思う。自作する新しい目的が増えたことが客足に結びついているのだろう。この流れは2018年にはどう変化しているのか。引き続きウォッチしていきたい。それではよいお年を。

6月22日にグランドオープンしたビックカメラAKIBA

リニューアルオープン前日のドスパラ秋葉原本店。パーツ館は別館に変わり、PCパーツはこちらで扱われるようになった

12月末の秋葉原中央通りの景色