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Windows 10の大型アップデート「Windows 10 1803」の配布が2018年4月以降、順次始まる。今回の目玉は、時系列に情報を整理して見せる「Windows Timeline」の搭載やLinux環境の「Windows Subsystem for Linux」の強化。Windows 10の設計思想の中での位置付けを踏まえつつ、知っておきたい新機能を見ていこう。

 ここからは、前回(2017年10月)の大型アップデート「Windows 10 1709」や既にプレビュー版が出ている次期版と比較しながら解説するため、Windows 10のバージョン1803を開発コード名「Redstone 4(RS4)」の呼称で紹介していく...

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Windows 10の大型アップデート「Windows 10 1803」の配布が2018年4月以降、順次始まる。今回の目玉は、時系列に情報を整理して見せる「Windows Timeline」の搭載やLinux環境の「Windows Subsystem for Linux」の強化。Windows 10の設計思想の中での位置付けを踏まえつつ、知っておきたい新機能を見ていこう。

 ここからは、前回(2017年10月)の大型アップデート「Windows 10 1709」や既にプレビュー版が出ている次期版と比較しながら解説するため、Windows 10のバージョン1803を開発コード名「Redstone 4(RS4)」の呼称で紹介していく。Fall Creators Updateの開発コード名は「Redstone 3(RS3)」で、名称は「Fall Creators Update」だった。プレビュー版では「Spring Creators Update」の名称が散見されたが、記事執筆時点で公式の名称や最終版の完成、一般配布開始日などが発表されていない。

 ただWindows Updateでの最新プレビュー版の表記が「バージョン1803の機能更新」となっていることから、RS4自体は3月末のビルド17133で完成しているとみられる。一般配布の開始時期は、前回のRS3、前々回のRS2ともに完成の約3週間後だった。今回も同様であれば、4月17日頃には一般配布が始まる見込みだ。

目玉機能の「Timeline」、情報整理「Sets」への布石

 Windows Timelineは、Windows 10で扱った情報を時系列に整理してユーザーに提示する機能だ。

情報を時系列に整理してユーザーに提示する「Windows Timeline」。ユーザーの作業を「アクティビティ」として記録していく。クラウドを介したPC間の同期も可能

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 マイクロソフトは2017年の開発者向けイベントで、Windows TimelineによってWindows上の「作業」(アクティビティと呼ぶ)を履歴として記録し、その情報を同一ユーザーの利用する他のPCやスマートフォンなどで共有することで、文書作成や動画視聴などの作業の継続を可能にするコンセプトを示した。

 さらにTimelineは、ユーザーをファイル管理の苦行から解放する新機能への布石でもある。アクティビティを整理して見せる切り口は、時系列だけではない。マイクロソフトはRS5で「Sets」(仮称)と呼ぶ機能の導入を計画中だ。

RS5で導入が予定されているSetsでは、1つのウィンドウに複数のアプリをタブ形式でまとめられる。Webページやアプリ、複数の文書などを組にして作業の状態を再現できるようになる

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 Setsは、一連の作業に必要な資料ファイルやWebページ、メール、予定、メモといったものを1つのウィンドウ内にタブ形式でまとめ、「仕事」に関わる情報をまとめて扱える機能。作業の状態をアプリケーションごとに管理するのではなく、複数のファイルやアプリケーションから成る一連の「仕事」を継続可能にする構想だ。Setsで作った「仕事」は、別のマシンからでも再現できる。

今回のTimelineを実現する機能をつぶさに見ると、Sets導入の下準備となる機能が多数含まれている。

 例えばOneDriveだ。アクティビティの構成要素となる文書ファイルや各種のデータは、クラウドストレージである「OneDrive」によってどのマシンからもアクセス可能になっている必要がある。RS4に付属するOneDriveクライアント(OneDrive.exe)は、「データの保護」機能としてドキュメントフォルダーなどをOneDrive側と同期させることを推奨する。同機能を使えば、アクティビティで扱うファイルがOneDrive上に自然と集まる。

 Microsoft Officeの保存機能も同様だ。OfficeアプリでOneDrive上のファイルを編集する場合は「自動保存」が標準で、ユーザーによる「保存」の作業が不要になっている。アプリケーションでのデータの変更は直ちにクラウド側に反映され、Setsによる他のPCでの作業再開を可能にする。既にユーザーの予定や連絡先、メールはOutlook.comサービスによってクラウド側に置かれ、どのPCからでもアクセスできる。

 PC以外のデバイスも対象だ。マイクロソフトは、SetsやTimelineを、AndroidやiOSといったスマートフォンのプラットフォームで展開することを狙う。昨年のTimelineの発表時には、スマートフォンでコンテンツ視聴を継続するデモを披露した。Office Mobileを使えば、AndroidでもiOSでも、Windows 10と同じように文書や表計算の作業が可能になる。

ファイルビューア機能に磨きをかけるEdgeブラウザー

 Webブラウザーの「Edge」の機能強化もTimeline、さらにはSetsと関連付けて見ると理解しやすい。

 RS4のEdgeは、電子書籍フォーマットの「EPUB」ファイルへのしおりの追加や著作権管理されていないファイルの保存機能、文書校正機能などを追加。Web技術が基盤のEPUBファイルのビューアとしての機能を着々と強化している。

Edgeは、EPUBビューアとしても動作する。今回は校正機能として英単語の文法表示が可能になった

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 TimelineやSetsはアクティビティとして作業履歴を記録する機能が基盤だが、作業記録はアプリケーション側の対応が必要になる。純正ブラウザーのEdgeは、当然対応済み。Edgeでこなせる「仕事」が増えれば、それだけTimelineやSetsによる情報管理がしやすくなるわけだ。

Linux環境は「閉じても消えない」ように

 Linux実行環境のWindows Subsystem for Linux(WSL)も今回大きく改良された。ユーザーがサインインしている間は、WSL側でバックグラウンドプロセスを継続して実行できるように内部構造を変えた。

 RS3までは、WSLを実行中のウィンドウを閉じるとLinux環境全体が終了してしまう。このため常駐するサーバーのような使い方はできなかった。RS4からは、バックグラウンドで動作するプロセス、いわゆるデーモン系のソフトウエアが利用しやすくなる。

 さらにWSL側からWindows側のファイルシステムへのアクセスでも、ファイルやディレクトリのアクセス制御(パーミッション)処理が可能になった。Linux環境からWindows環境のデータを扱う際の互換性が向上している。

 WSL-Windows間のプロセス間通信も可能になった。具体的には、Windows側のSocket API(WinSock)で「AF_UNIX」と呼ばれるローカルアドレス空間を指定できるようになった。これは、UNIX/Linuxでは標準的なプロセス間通信の仕組みとして使われているもの。これによりWindows側とWSL側の両プログラムが連携して動作するソフトウエアの開発が可能になる。

 コマンド入力環境(シェル)の面では、Windowsプログラムとして「tar」や「curl」といったLinux環境で定番のコマンドが標準搭載された。リモート管理に使うSSH(Secure Shell)の「OpenSSH」もWindowsの標準コンポーネントとして導入可能になっている。

改編続く「設定」アプリ、GUIは新デザイン指針を反映

 Windows TimelineとWSL以外の変更点は、Windows 10からの新機能の微修正を中心に多岐にわたる。

 普段よく使う機能としてインパクトがあるのは「設定」アプリの機能強化だろう。例えばフォントの管理を設定アプリ側から操作できるようになった。

フォントを「設定」アプリでも扱えるようになった。ただし、従来との互換性を維持するため、コントロールパネル側のフォント設定もそのまま残る

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 昨年発表されたWindowsの新デザイン指針「Fluent Design」への対応も、見て分かる違いの一つ。大きな変化ではないものの、背景に「Acyric」と呼ぶ透過性のあるオブジェクトを使ったり、マウスカーソルが操作可能な画面要素(オブジェクト)に乗ったときに周囲のオブジェクトの境界を薄く表示したりなど、Windowsデスクトップや標準アプリでの対応が進んでいる。

Fluent Designでは「反射」がテーマの一つ。マウスカーソルを乗せたオブジェクトのそばのオブジェクトに光が当たって浮かび上がる様子を表現している

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 細かなところでは、多くの言語でハードウエアキーボード入力時に推測変換(入力候補の提示)が可能になった。日本語入力環境では以前からあった機能だが、今回の改良によりIMEを使わない言語でもキー入力を省力化できる。

 手書きパネルも改良され、訂正や編集をジェスチャーで指示できるようになり、使い勝手が向上している。マイクロソフトは以前からペン入力を重視していたが、ここにきて基本機能の整備が完了。使い勝手を上げていく段階に入ったと言える。