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Windows 10の春アップデート、1803版(開発コード名は「Redstone 4」、以下RS4)が2018年4月中に登場する。新味のある機能は大きく3つ。作業履歴を時系列でたどれる「Windows Timeline」、近くのPCやスマートフォンにURL/ファイルを簡単に転送できる「近距離共有」、OSが収集したPCの診断データの中身を精査できる「診断データビューアー」だ...

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 Windows 10の春アップデート、1803版(開発コード名は「Redstone 4」、以下RS4)が2018年4月中に登場する。新味のある機能は大きく3つ。作業履歴を時系列でたどれる「Windows Timeline」、近くのPCやスマートフォンにURL/ファイルを簡単に転送できる「近距離共有」、OSが収集したPCの診断データの中身を精査できる「診断データビューアー」だ。

  • (1)Windows Timeline
  • (2)近距離共有(Near Share)
  • (3)診断データビューアー(Diagnostic Data Viewer)

 以下では、RS4でWindowsの使い勝手を改善する上記の3機能のメリットと位置付けを見ていこう。

(1)「Windows Timeline」で作業履歴を一覧表示

 Windows Timelineは、アプリケーションによる文書作成やWebブラウザーの「Edge」によるWebページの閲覧などの「作業」を履歴として保存し、あとから作業の再開を可能にする機能。アプリとファイルを時系列に整理してユーザーに提示する新GUIで、Windows 10 1803全体を通して目玉となる変化だ。

 Timelineでは、こうした履歴項目を「アクティビティ」と呼ぶ。わざわざ別の名前を付けているのは、従来の「最近使ったもの」のような単純な起動履歴ではないから。アクティビティとしてTimeline上で扱えるようにするには、アプリケーション開発者がTimelineのAPIを使ってTimelineに登録する必要がある。逆に言うと、Timelineに対応していないアプリは、アクティビティを登録しないのでTimelineの履歴には残らない。

Windows Timelineの実行画面。起動中のアプリケーションを一覧する「タスクビュー」と統合されており、最上部には現在のウィンドウ(タスク)、その下には過去に起動したアクティビティをカード形式で表示する
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 Timelineを呼び出すアイコンは、起動中のアプリケーションをサムネイル表示する「タスクビュー」と同じ位置にある。Timelineはタスクビューを兼ね、履歴の先頭には起動中のアプリケーションのウィンドウ一覧を表示する。その下がアクティビティの表示領域だ。

 アクティビティは画像とテキストを組みあわせた「アダプティブカード(Adaptive Card)」というオブジェクトを利用する。オブジェクトの実体は、JSON(JavaScript Object Notation。JavaScript用のオブジェクト表現)形式のテキストと画像データの組み合わせだ。テキストと画像だけでなく、ボタンやダイアログボックスのようなものも記述できる。

 JSONはWebでは一般的なオブジェクト記述形式。特定のOSやWebブラウザーに依存しないため、Windows以外のAndroidやiOSといったスマートフォンOSでも扱いやすい。記述するのは論理的な構造とコンテンツだけで、具体的な画面上の配置などは表示側の環境に応じて変わる。

 例えば、WordなどのOfficeスイートであれば、作業対象のファイルや再開に必要な情報、作業を表すアダプティブカードをTimelineに登録する。ユーザーが作業を再開すると、アプリケーションは自身が登録した情報を使って作業環境を復元する。Webブラウザー(Edge)なら、閲覧したWebページやサイトのURL、サムネイル画像などを使ってアクティビティを登録しておく。ユーザーが該当のアクティビティを選ぶと、Webブラウザーは指定されたページを表示する。

仕組みは簡単ながら、Windows Timelineを利用するためにはアプリケーション側の対応が必要となる。既にWordやExcelといったOfficeスイート、Edgeをはじめ、「Grooveミュージック」「映画&テレビ」「Windows Media Player」といった標準アプリは対応済みだ。ただしWindowsの標準アプリがすべてTimeline対応というわけではなく、例えば「電卓」アプリのような単純でファイルを扱わないアプリは非対応だ。起動中はTimelineの先頭にウィンドウを表示するものの、履歴にアクティビティは残らない。

 アクティビティはローカルのPC内だけでなくクラウド側にも保存できる。初期状態ではローカルのみだが、「設定アプリ」-「プライバシー」-「アクティビティの履歴」で「WindowsでこのPCからクラウドへのアクティビティを同期する」をオンにすると、同一ユーザーが利用するPCすべてで同じ履歴を共有できるようになる。

クラウドとの同期を設定すると、同じユーザーが他のマシンで行ったアクティビティもTimelineに表示される
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 アクティビティをクラウドに保存できたとしても、アプリケーションとファイルを呼び出せるかは個々のPCの環境次第だ。当然、該当するアプリは事前にインストールされている必要がある。ファイルについては、OneDriveクライアントで「ドキュメント」「デスクトップ」といったユーザーフォルダーを自動的にOneDrive側と同期する機能を使える。

 ローカルとクラウドの親和性が高いのは、やはりMicrosoft Officeになる。Office 365は最近のアップデートで「自動セーブ」機能を搭載した。これはTimelineを搭載するRS4の一般公開を想定してのことだろう。Timelineのアクティビティを通じてPC間を行き来しながら同一の作業を継続する場合、OneDriveに置いたファイルは常に最新状態になっている必要があるからだ。

 今のところ、Timeline経由で特定のPCのローカルファイルに対して他のマシンからアクセスする機能はない。OneDriveに登録したPCのファイルをOneDriveのWebページから開けるため、できそうなものだが、この機能はTimelineのファイルアクセスには使われていないようだ。

 以上のように、複数マシン間で作業を継続できるTimelineは幅広いユーザーにとって役立つ機能と言える。難点は対応アプリケーションしか履歴を記録できないことだ。アクティビティの登録だけでなく、作業の再開、自動保存といった機能の追加が必要になる。真価を発揮するのは、サードパーティのアプリがTimelineに対応し始めてからになるだろう。

(2)「近距離共有」でURL/ファイルを簡単に転送

 RS4に実装される「近距離共有」(Near Share)は、BluetoothとWi-Fi Directを利用する情報転送機能。USBメモリーを使ったファイルの移動に似た使い勝手の良さが特徴だ。RS4が動作するPC同士であれば、事前の設定は不要。URLやファイルを近くにある他のPCに簡単に転送できる。

近距離共有は、Edgeやエクスプローラーの「共有」機能から起動する。Bluetoothの通信により、近くにあるRS4搭載PCが表示される
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 悪意のあるファイル転送に対するセキュリティは、受け手が拒否したり、受信と送信を同一ユーザーに限定したりして確保する。必要に応じてそれぞれのPCで設定しておく。

 RS4の標準状態では、転送はWebブラウザーのEdgeかエクスプローラーから指示する。Edgeで任意のWebページを開くかエクスプローラーでファイルを選択しておき、ツールバーの共有アイコンを開くと送信可能なPCが一覧表示される。

 相手先PCを選択すれば、あとは相手側の操作を待つだけだ。受信側には、ファイル転送時は「保存して開く」「保存」「拒否」の3つの選択肢が表示される。自動で受信することはない。

近距離共有では、受信の可否を受け手が選択する
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 URLの共有は、送信側・受信側ともEdgeの使用が前提になる。ファイルの関連付けは機能せず、受信側ではEdgeが起動して送られてきたURLを開く。「Google Chrome」や「Firefox」などの他ブラウザーを利用しているユーザーには利用場面が限られる。

 近距離共有は、利用シーンによってUSBメモリーの代わりになる。高速な無線LANを備えるPC間であれば低速なUSBメモリーより素早く転送できる。スマートフォンとPCとのやり取りが多いユーザーや複数台のPCを所有するユーザーにとって重宝する機能となりそうだ。

(3)「診断データビューアー」でプライバシー保護を確認

 Windowsはアプリケーションで発生したエラーやユーザーの利用統計を収集し、米マイクロソフト(Microsoft)のOS開発に役立てる仕組みを備えている。「telemetry」や「Customer Experience Improvement Program(CEIP)」と呼ばれる機能だ。搭載は2006年のWindows Vistaから。例えばWindows 7の開発時には、アプリ関連の統計からスタートメニューやタスクバーのデザインを決定。PCの画面解像度やCPU種別、メモリー容量といったPCのハードウエア情報を基にパフォーマンスなどを調整したという。

 マイクロソフトによれば、こうした情報の収集はユーザーの同意を得たうえで実施しており、個人の行動を特定することはないとしている。しかし収集した情報を簡単に知るすべがないため、プライバシー保護の観点から疑問や不安を感じるユーザーは少なくない。企業としても、収集情報の把握や機密情報の確認を管理者ができない点への不満はあるだろう。

 そこでRS4では、マイクロソフトが収集する「診断データ」に関して、ユーザーの制御を可能にし、収集データを見ることができるようにした。具体的には、「設定」アプリの「プライバシー」に「診断&フィードバック」という項目が追加され、診断データの収集範囲や頻度などをユーザーが設定できる。

Windowsがマイクロソフトに送信している診断データについては「設定」-「プライバシー」から制御が可能になった。プレビュー版のため無効化されている
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 診断データの収集範囲に関しては、「基本」と「完全」の2種類を選択可能。認識率を向上させるために収集している手書きデータと文字入力時の推測変換の利用状況などは、個別にオン/オフが可能だ。

 診断データの設定は、Microsoftストアから「診断データビューアー」をインストールして確認する。ただし表示されるのは、マイクロソフトに送信しているJSON形式のほぼ生データ。テキストなのでおぼろげながらどのような情報が含まれているかは推測できるものの、エンドユーザーに説明責任を果たせる仕様とは言いがたい。

診断データビューアーは、Microsoftストアから入手する。生の状態の診断データ(JSON形式)がそのまま表示される
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 現時点では分かりやすさに欠けるのが残念だが、不安に駆られる要素は確かに減った。「Windows 個人情報」などのキーワードでインターネットを検索し、レジストリを編集して収集機能をオフにする、といった操作を強いられる現状よりはるかに健全だろう。