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Windows 10のバージョン1803(開発コード名:Redstone 4、以下RS4)の一般提供が2018年4月中に始まる。使い勝手の面では、Windowsのデスクトップを担う「エクスプローラー」とエージェント機能「コルタナ」、および標準Webブラウザー「Edge」の改善で、煩わしさを減らしている。

 最初に、Windows 10のユーザーインタフェースを構成するエクスプローラーとコルタナ、そしてEdgeの役割分担を簡単におさらいしておこう...

Windows 10のバージョン1803(開発コード名:Redstone 4、以下RS4)の一般提供が2018年4月中に始まる。使い勝手の面では、Windowsのデスクトップを担う「エクスプローラー」とエージェント機能「コルタナ」、および標準Webブラウザー「Edge」の改善で、煩わしさを減らしている。

 最初に、Windows 10のユーザーインタフェースを構成するエクスプローラーとコルタナ、そしてEdgeの役割分担を簡単におさらいしておこう。

 エクスプローラーは、デスクトップやタスクバー、スタートメニューなどを管理するソフト。ユーザーにとってはファイル管理に使うソフトとしてなじみ深いが、内部的にはユーザーインタフェースを司る「シェル」として位置付けられる*1

*1 日本語環境では「エクスプローラー」と表記されるが、英語版の呼称は「File Explorer」。

 Edgeは、もうひとつの“エクスプローラー”である「Internet Explorer(IE)」に代わるWebブラウザー。Windows 10以降のソフトウエア開発環境「UWP(Universal Windows Platform)」を用いたソフトで、PCやスマートフォンなどのマルチデバイスで利用できる新ブラウザーだ。名前はIEからEdgeになったものの、エクスプローラーと並んでインターネット上のオンラインサービスやクラウド連携アプリケーションの入り口という位置付けに変わりはない。

 コルタナは、ユーザーから音声入力やキーワードで操作を受け付けるデジタルアシスタント。ユーザーは音声やタスクバーに統合された検索欄を通じてコルタナに指示を出す。

 この3つの連携により、ユーザーの操作や指示に対して、ローカルアプリケーションからインターネット上のサービスまですべてを起動できるようにしてある。ファイルの関連付けに応じてローカルのアプリケーションを起動したり、URLの内容によってアプリケーションやEdgeを呼び出したりする。

操作と表示の無駄を減らした新デスクトップ

 RS4におけるエクスプローラー周りの改善点は、

  • スタートメニューのインデックスの改良
  • 集中モード(Quiet Hours)
  • マイピープルの改良
  • オンラインストレージ「OneDrive」の状態表示
  • UWPアプリの自動起動や発行元/バージョン表示
  • コルタナのリマインダー機能や通知欄の整理

などがある。ユーザーに不要な情報を表示しないようにする機能追加と、これまでの機能追加で生じていたGUIの混乱を整理した。

スタートメニューのインデックス文字を簡略化

 Windows 10で復活したスタートメニューは、解像度によっては画面の半分ほどを占める巨大なメニューを表示する。デスクトップモードのとき、左側に「すべてのアプリ」、右側に「ピン留めしたアプリ」が並ぶ。RS4では、このうち「すべてのアプリ」欄がスリム化された。

 従来のWindows 10 1709版(開発コード名:Redstone 3、以下RS3)までは「すべてのアプリ」が名称順に並び、先頭文字がインデックスとして付いていた。日本語では50音がすべて表示され、「ふ」「フォト」、「へ」「ペイント3D」といったように、限られたスペースをインデックス文字が占めてしまう。

スタートメニューのインデックス表示は、これまでの50音から「あ行」「か行」と行別で表示領域が小さくなり扱いやすくなった
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 RS4では、これを「あかさたなはまやらわ」と50音各段の先頭文字だけにした。これにより「すべてのアプリ」のリストが短くなり、スタートメニューにある程度の高さがあればスクロールせずにアプリケーションを選べるようになった。

心をかき乱す通知を抑制する「集中モード」

 プレゼンテーションや集中力が必要な文書作成に取り組んでいる最中、遠慮せず飛び込んでくる通知。RS4ではここにメスを入れ、デスクトップへのトースト通知(画面右下に表示される矩形の通知)などを抑制する「集中モード」を用意した。英語版では「Quiet Hour(静かな時間)」と呼ばれる機能だ。

通知をオフにして作業の邪魔にならないようにする「集中モード」機能。時間帯だけでなく、「自宅にいるとき」「ゲーム中」などの状況に応じて自動的に有効化できる
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 集中モードには、「オフ」「優先順位のみ」「アラームのみ」の3つの動作モードがある。「オフ」ではすべての通知を表示。「優先順位のみ」では、あらかじめ指定したアプリやWindowsの機能のみを通知する。優先度の設定は、「設定」アプリの「システム」-「集中モード」-「優先順位の一覧をカスタマイズします」で変更できる。

 集中モードの自動切り替えは、「時間帯」「複数ディスプレイの利用時」「ゲーム中」「自宅かどうか」といった条件でオン/オフを設定できる。例えばプレゼンテーション中は複数のディスプレイを利用する形態なため、通知が出ない。

 自宅にいるかどうかの判定は、コルタナが担う。コルタナには自宅や職場の位置を登録する機能があり、自宅の位置を設定しておくとこの項目が有効になる。

コミュニケーション機能「マイピープル」が実用的に

 マイピープルは、RS3で導入されたコミュニケーション機能だ。指定したユーザー3人をタスクバーにピン留めし、メールやSkypeメッセージを素早く確認できる。

 RS4では、マイピープルに4人以上をピン留めすることが可能になった。「設定」アプリの「個人用設定」-「タスクバー」-「People」で指定できる。

「マイピープル」でタスクバーに表示できる連絡先(マイ連絡先)の数を設定可能に。さらにマイ連絡先のアイコン自体に新着などを示すサブアイコンが出るようになった
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 RS3でも4人以上を指定できたのだが、メッセージの有無などはマイピープルアイコンを開かないと確認できず、ショートカット機能としてほとんど意味がなかった。

OneDriveの状態をアイコン表示

 ファイル管理ソフトとしてのエクスプローラーとしては、エクスプローラーのツリーペイン(左側の領域)にOneDriveの状態を表示するアイコンが追加された。保存先がクラウド側のみか、ローカルとも同期しているのかを把握しやすくなった。

RS4のエクスプローラーではツリーペイン(左側の領域)にもOneDriveの状態を表示する
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UWPアプリの自動起動とバージョン表示が可能に

 RS3までのUWPアプリは、従来のデスクトップアプリと違いスタートアップに登録して自動起動させる機能がない。RS4では、UWPアプリをサインインの後、自動的に起動するスタートアップアプリとして登録できるようになった。

 この変更に伴い、「設定」アプリの「アプリ」に「スタートアップ」というサブ項目が追加された。ここからデスクトップアプリケーションを含め、すべての自動起動設定をまとめて管理できる。

RS4でUWPアプリの自動起動が可能に。従来のデスクトップアプリと自動起動に対応させたUWPアプリのスタートアップ設定をまとめて管理できる
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 ただしUWPアプリの開発時にスタートアップアプリとして起動するように開発する必要がある。既存のUWPアプリは自動起動の対象外になる。

 細かいところでは、「設定アプリ」-「アプリ」-「アプリと機能」の「詳細オプション」でUWPアプリのバージョン番号や発行元といった情報を表示できるようになった。RS3までは、Microsoftストアアプリで該当のページを探す必要があった。

「アプリと機能」で発行元やバージョンを確認できる
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RS3までは、Microsoftストアアプリで調べる必要があった
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秘書機能を強化したコルタナ

 マウスによる操作が主体のエクスプローラーと並び、音声認識や自然文による対話形式のユーザーインタフェースに成長しつつあるコルタナ。RS4では、コルタナの管理ツールに相当する「コルタナノートブック」を中心に改善が図られている。具体的には、情報管理の「オーガナイザー」からリマインダーを設定したり、「スキルの管理」でコルタナの会話機能を確認したりできる。

コルタナノートブックが改良され、リマインダーなどの「オーガナイザー」と、アプリなどが登録した会話機能である「スキル」を管理できる
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 さらに米国向けの英語環境では、「Lists」と呼ぶチェックリストを作る機能が盛り込まれた。買い物メモやToDoリストなどとして利用できる。

米国向けのコルタナにはListsと呼ばれる機能が搭載され、買い物メモやToDoなどのチェックリストを作成できる。URLを登録するとWebページの情報からそれらしい候補を提示する
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 ユーザーが入力できるのはテキストのみだが、URLを入れると該当ページからタイトルや画像を取り出して、適切な項目を作ってくれる支援機能を備える。

 例えば、アマゾン・ドット・コムの商品ページであれば、商品名や商品画像が含まれた項目を作ってくれる。ユーザーの利用に応じて適当な提案を表示する。米国のSpotifyユーザーは、音声コマンドでSpotifyの音楽再生も可能なようだ*2

*2 日本語環境でいずれサポートされるとは限らない。例えば、付箋アプリへの手書き文字の認識とそれに対する応答など、過去に実装されたコルタナの機能でもいまだに日本語環境に対応していないものが少なくない。

 コルタナ自体の機能強化ではないが、コルタナの機能を補う「Cortana Show me」というアプリケーションがMicrosoftストアから入手できる。音声でWindowsの設定などを操作できるアプリで、コルタナが代行してくれる操作を実際のマウス操作としてユーザーに可視化してくれる。

コルタナによる設定などをマウス操作でユーザーに見せてくれる「Cortana Show Me」。Microsoftストアから入手可能になった
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 機能強化の一方で、混乱を招く画面設計をシンプルな構成に改めている。具体的には、コルタナがユーザーに提示する情報は、内容に応じてポップアップ表示「フライアウト」と画面右下のアイコンから呼び出せる通知領域「アクションセンター」の2カ所に分かれていたが、RS4からはアクションセンターに一本化された。

独り立ちを急ぐEdgeブラウザー

 Windows 10標準のWebブラウザーながら、IEやGoogle Chrome、Firefoxを追う立場にあるEdge。RS4での変更点は、Webブラウザーとしての基本機能とドキュメントビューアーとしてのEPUB/PDF閲覧機能の追加が主だ。

 Edgeのユーザーインタフェース関係では、ブックマークや履歴などを表示する「Hub View」のデザインが、タブによる切り替えから左側にサブメニューを表示する形に変わった。Windows 10のGUI全体で一貫性を持たせる動きと言える。

Edgeのお気に入りなどを表示する「Hub View」が改良され、左側に項目が並ぶようになった
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 表示領域の無駄遣いを減らす工夫もある。

 例えばメニュー部分にブックマークを表示する「お気に入りバー」を自動でオン/オフするようになった。新規タブなどを開くとお気に入りバーが表示され、そこからページを開くとバーが消えて表示領域が大きくなる。

 お気に入りバーに登録したWebページごとにテキストラベルの有無も指定できるようになった。RS3までは、Chromeのようにすべてのラベルを表示するか、しないかの選択しかなかった。このほか[F12]キーで呼び出す開発者向けツールが、ページの水平分割だけでなく垂直分割でも表示できるようになった。

 細かなところでは、音を出しているページのタブから音量のミュート指定が可能になっている。

 HTMLのレンダリングや関連の機能では、標準化団体のW3Cで規定した「Variable Fonts」「Service Workers」「Push」「Cache API」への対応がある。

 Variable Fontsは、W3CのCSS3 Fonts仕様で規定されている。OpenTypeのバージョン1.8を利用しており、1つのフォントファミリー内の複数のスタイルを、1つのフォントファイルにまとめることができる。CSSからは、ウェイトや文字幅などのスタイルを指定できる。JavaScriptとの組み合わせで文字によるアニメーションなども可能である。

 Service Workers、Push、Cache APIは「Progressive Web Apps(PWA)」と呼ばれる、ローカルアプリケーションのように動くWebサービスを構築するためのものだ。これは米マイクロソフト(Microsoft)独自のものではなく、Google ChromeやFirefoxといった他のWebブラウザーでもW3Cの規定するAPIに沿って対応が進んでいる。

 簡単に言うと、URLを指定して開いたサービスが同APIを利用して必要な情報やコードをキャッシュしておき、オフラインでも動作できるようにする。Service Workersは、Webページがオフラインの状態でもCSSや画像の読み出し要求に対して開発者が指定したスクリプトを渡せるようになる。Google ChromeやFirefoxは対応済みの機能だ。

EPUBファイルの文書校正が可能に

 EdgeはWebサイトだけでなく、Webで扱うEPUBやPDFといったドキュメントファイルのビューアーでもある。RS4で目立つのは、EPUB形式に対する強化だ。例えば、RS4では文書校正ツールやしおり機能を追加した。

 EPUB文書に対して名前を付けてブックマークを登録、編集する機能も搭載した。RS3まではブックマークを付けたページを記憶するだけだった。このほか、ツールバーやポップアップメニューなどのデザインを細かく修正している。

 保存や注釈といった基本機能に加えて、英語のみの対応だがEPUB用の文書校正ツールも組み込まれた。単語を音節で区切って表示したり、名詞、動詞、形容詞を色分けして表示することが可能になった。

EdgeのEPUBビューアー機能には、文法ツールが付き、品詞ごとに色分けするなどの表示が可能になった
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 Edgeの注釈ツールでEPUBに付けたマーカーやメモは、RS4の近距離共有機能を使って他のマシンへコピーできる。とはいえ対象は限定的で、Microsoftストアで購入したEPUB書籍(現時点では米国内のみ購入可能)だけだ。

米国のMicrosoftストアで購入した電子書籍だけは、ブックマークや閲覧位置などを含め、Edgeの近距離共有機能で近くのマシンに送信できる
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 Microsoftストアでは米国向けに電子書籍を販売しており、その標準形式はEPUBになっている。このためか、同社が販売するEPUB関連の強化が多い。例えば英語環境のEdgeのHub ViewにあるBooksは、購入した電子書籍用であり、今回はここからスタートメニューへのピン留めなどがサポートされた。

英語環境のEgdeでは、Microsoftストアで購入できる電子書籍用のBooksという項目がHub Viewにあり、購入した書籍がここに表示される
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 EPUBファイルはローカルのEPUBフォルダ内に保管されず、ユーザーのホームディレクトリにあるAppdata\local以下のEdge専用フォルダに記録される。OneDriveなどに保存しても注釈はローカルで別に保存され、PC間では共有できない。

 これらの機能はPDF形式には提供されず、EPUB形式でしか利用できない。マイクロソフトは、かつてPDFに対抗してXPSという印刷兼用の文書形式を提唱したが、文書形式としてのXPSは停滞状態で、Vista以来、機能追加などが行われていない。XPSに代わるのがEPUBと見ることもできそうだ。

 EPUBの強化を急ぐかのように見えるマイクロソフトだが、Windowsの一部であるEdgeとアプリケーションのMicrosoft Officeとで温度差がある。PDFは保存形式としてWordやPowerPointなどに対応しており、PDFファイルを出力する仮想プリンタードライバーも用意する。これに対して、EPUBはWindows 10、Microsoft Officeのいずれも書き出しに対応していない。RS4では、かろうじて著作権保護機能が有効になっていないEPUBファイルの「保存」が可能になった。

EPUB重視の姿勢に透けるマイクロソフトの思惑

 Edgeは上記のような強化がなされたものの、RS4の段階ではWebサイトに対する互換性の点でIEに劣る。Edgeでは操作を完了できないサイトが少なくない。IEのActiveXコントロールが必須なサイトもまだ残っている。このため、今のところEdgeを積極的に選択する理由はほとんどないのが現状だ。

 マイクロソフトがEdgeでWebブラウザーとしての機能ブラッシュアップとEPUB対応を急ぐのは、次期大型アップデート(RS5)で導入を予定する「Sets」(仮称)の影響と見られる。Setsではアプリがタブ形式で表示され、関連する資料やWebページ、アプリなどを1つのウィンドウで表示できる。

 このときEdgeは、Webブラウザーとしてだけでなく、PDFやEPUBファイルのビューアーとして動作する。Setsに代表されるWindows 10の便利な機能との合わせ技で、Edgeの普及を後押しできるか。RS4はその前哨戦になりそうだ。