Windows 10 1803版を使い始めてすぐに分かる機能としては、ユーザーの作業履歴をたどれる「Windows Timeline」、スタートメニューのスリム化などがある。
2018年4月中に一般公開が始まる、Windows 10のバージョン1803(開発コード名:Redstone 4、以下RS4)。ソフトウエア更新や周辺機器管理の効率化といった内部的な改良も少なくない。
Windows 10 1803版を使い始めてすぐに分かる機能としては、ユーザーの作業履歴をたどれる「Windows Timeline」、スタートメニューのスリム化などがある。
これらの機能を支えるのが、ソフトウエアの更新手段や入力システム、「レジストリ」や周辺機器管理といった内部的な改良だ。ここでは以下の5つの変更点を解説していく。
- (1)ストア経由で言語パックやフォントを更新
- (2)りんなや絵文字を組み込んだ入力システム
- (3)レジストリ管理プログラムをカーネルから除外
- (4)Bluetoothは高速ペアリング、カメラはプライバシーを保護
- (5)その他、企業向けの変更点
(1)ストア経由で言語パックやフォントを更新
RS4の内部的な変更点で大きな要素と言えるのが、Windowsの国際化(複数言語などへの対応)機能だ。
まず、Windowsを特定の言語向けに変更するための「言語パック」をMicrosoftストアから入手できるようになった。従来のWindows 10 1709版(RS3)までは、言語パックはコントロールパネルなどからの設定変更で自動的にダウンロードされていた。
言語パックは、RS4からは「Local Experience Pack」と呼ばれるようになった。この中には、標準搭載アプリケーションの表示メッセージやアプリケーション名、キーボード、音声合成用データ、手書き文字認識関連のモジュールなどが含まれる。
これらを導入することで、Windowsは該当言語の表示や入力が可能になる。複数の言語パックを導入してある環境では、標準搭載アプリやWindowsのメッセージが第1言語に指定した言語のものに切り替わる。
さらに、Windowsや標準搭載アプリの「日本語表記」に関しては、「ランゲージコミュニティ」アプリ経由で、マイクロソフトへフィードバックを送ることができる新機能を搭載した。
ランゲージコミュニティアプリは、Microsoftストアから入手して利用する。ここで入力したフィードバックは「フィードバックハブ」の提案/問題レポートとして投稿される。以前は、このフィードバックハブに「言語翻訳の問題」という選択肢があった。
マイクロソフトによれば、今後は人工知能(AI)技術を使い、メッセージ翻訳などを担わせる。言語パックには、メニューやボタンの項目名、アプリ名、大量の表示メッセージなどが含まれる。特にWindows 8から導入された「設定」アプリは、設定項目を文章で表現するようになり、メッセージ量がかなり増えた。当初の翻訳の質は目を疑うようなものも多かったが、おそらく自動翻訳を使ったのであろうと想像される。
今後も「設定」アプリへ旧コントロールパネルの設定項目が移行していくことで、翻訳対象のメッセージ量は増えるばかりだ。そこで最近力を入れているAI技術とユーザーからのフィードバックを使い、言語パックの質を高める算段なのだろう。配布形態がMicrosoftストア経由になったのは、OS更新とは別枠で高頻度の更新が可能になるという側面もある。
言語パックと同様に、フォントもMicrosoftストアからの配布となる。これまでフォントはファイルを直接ユーザーがインストールしていた。しかし、セキュリティを考えると、フォントファイルの身元がはっきりするMicrosoftストア経由とすることは理にかなっている。ファイルからのインストールでは、ユーザーがマルウエア入りのファイルをダウンロードしてしまう可能性もあった。
この変更に伴って、RS4ではフォントの設定ツールがコントロールパネルから「設定」アプリの「個人用設定」-「フォント」に移行した。Windowsのフォント関係のGUIはWindows 2000あたりから大きく変わっていなかったため、隔世の感がある。
RS4では、OpenTypeバージョン18で規定された「Variable Fonts」に対応した。Variable Fontsファイルは、表示時にソフトウエア側からウェイトや文字幅を連続的に増減できる。従来のフォント形式では、別のフォントデータとして分けて用意する必要があった。
Variable Fonts対応と同時に、フォントのプレビュー画面も姿を変えている。Variable Fontsは、Webのスタイル記述言語「CSS(Cascading Style Sheets)3」で扱うことが可能で、RS4のEdgeブラウザーもこれに対応している。
(2)りんなや絵文字を組み込んだ入力システム
入力システムの改良は、タッチキーボードが中心だ。Windows 10には、Windows 8で導入された「XAMLタッチキーボード」とWindows XPのタブレットエディションから使われているタッチキーボード(デスクトップアプリケーション)の2種類がある。ここではXAMLタッチキーボードについて解説する*1。
まず、デザイン面では、Windowsの新デザイン指針「Fluent Design」の背景(Acrylicと呼ばれる)が使われ、わずかに背景が透けて見える。
次に、RS3で導入された「シェイプライティング」入力がワイドキーボードでも可能になった。シェイプライティング入力とは、タッチキーボードをなぞるように指を動かすと、その動きと単語辞書から、ユーザーの入力したい単語を推測して候補を表示する機能。ただし日本語キーボードでは非対応だ。
日本語関係では、「女子高生AIりんな」による予測候補が表示されるようになった。標準では無効で、タスクバーの通知領域(システムトレイ)にあるIMEモードアイコンを右クリックして「プロパティ」-「詳細設定」-「予測入力タブ」-「予測入力サービス」で「りんな」のチェックボックスをオンにすることで利用可能になる。
予測候補をキーワードにしたインターネット検索も可能になった。候補右側の虫眼鏡アイコンをクリックするか、[Ctrl+B]キーでBingによるインターネット検索を呼び出せる。
MS-IMEでは、英単語に似た文字列を入力すると、推測候補に正しいつづりの英単語を表示する機能がある。このときに、ユーザーが入力したつづりはダブルクオートで囲んで表示され、区別しやすくなった。文書作成では、意図的に間違ったつづりを使う可能性もあり、こうした場合に、入力と同じ候補を選択して入力文字を確定させることができる。
予測入力が使える言語も増えた。例えば入力時にIMEを使わない英語キーボードなどで、ハードウエアキーボードの利用時に推測候補を表示できるようになった。日本語のIMEでは一般的な機能だが、英語入力時でも途中まで入力すると推測候補を使って入力打鍵数を減らせる。「設定」アプリの「デバイス」-「Typing」-「ハードウェアキーボード」-「入力時に入力ヒントを表示する」で有効化できる。
手書き入力パネルは空白を挿入するジェスチャーなどが追加され、パネル自体のレイアウトも変更になった。認識後の文字フォントを指定できるようになっている。認識され確定した文字の上から文字を書くと、その文字も変更できる。入力ミスや認識ミスの場合に、上書きで訂正できるのは便利だ。
手書き入力パネルを呼び出す手間を省く工夫も盛り込んだ。埋め込み型の手書き認識パネルを使うアプリが開発可能となり、対応アプリでテキスト入力欄をペンでタップすると、小さな手書き入力パネルをその場所に表示する。ただし、現時点では日本語キーボードで動作しない。
絵文字に関しては、専用の「絵文字パネル」を使った入力が可能になった。従来はタッチキーボード内で絵文字を選択していたが、RS4からは[Win+.(ピリオド)]で絵文字パネルが表示され、ここから絵文字を選択して入力できる。標準では、一回の絵文字入力でパネルが閉じてしまうが、「設定」-「時間と言語」-「地域と言語」-「キーボード」-「キーボードの詳細設定」で、絵文字入力後に閉じないように設定できる。
絵文字パネルには、検索機能もある。ただし、日本語キーボードを選択している状態では絵文字パネルが表示されず、IMEの機能(MS-IMEならばIMEパッドなど)やタッチキーボードから絵文字入力する必要がある。
試しに絵文字パネルの検索機能で「police」と入力すると、警察官やパトカーの絵文字が見つかる。使って見ると意外に便利な機能という印象だ。日本語IMEでも一部の絵文字は、かな変換で見つけられるが、例えば「警官」と入力した場合には、警察官の絵文字しか表示されない。
(3)レジストリ管理プログラムをカーネルから除外
Windowsの設定値を保持している内部データベース「レジストリ」は、ファイルとして保存されカーネルがメモリーに読み込んで利用している。RS4からは、このレジストリ情報を専用の「レジストリプロセス」が管理するようになった。
RS3まではカーネル空間のメモリー領域に読み込まれ、スワップの対象外のため利用頻度に関係なく常に同じ領域を占有し続けていた。RS4では、レジストリ情報をユーザー空間で動作するレジストリプロセスが管理する。オンメモリーでの処理は同じだが、仮想記憶によるスワップイン/スワップアウトの対象となる。
レジストリがスワップアウトされた状態ではOSの動作速度に大きな影響を与える可能性もある。ただメモリー管理を適切に行えば、アクセス頻度の高いレジストリ情報はメモリーに残りやすくなる。アクセス頻度の低い情報がスワップアウトされ、その領域は他のプロセスが利用可能になる。SSDによる外部記憶の高速化がレジストリプロセス導入を後押ししたのだろう。
(4)Bluetoothは高速ペアリング、カメラはプライバシーを保護
周辺機器の管理機構では、Bluetoothのペアリングとカメラのプライバシー保護に改善が図られている。
Bluetoothでは、RS4からはマイクロソフトが提唱する新しいBluetoothペアリング仕様である「Swift Pair」が実装される。従来は手動操作やNFCを使っていたBluetoothのペアリング処理を簡略化したもので、購入したBluetooth機器をすぐに利用できるようになるという。
ただし、Swift Pairによるペアリングには、Swift Pair対応のBluetooth機器が必要になる。マイクロソフトはSwift Pairの仕様を公開し、周辺機器メーカーなどに採用を呼びかけるほか、自社のマウスなどが対応するとしている。
カメラについては、すべてのアプリとWindows自体がカメラにアクセスできるかどうかの設定が可能になった。RS3までの個別のアプリを対象にしたアクセス許可と違い、RS4ではWindows自身もアクセスできなくなる。
設定自体は、「設定」アプリの「プライバシー」-「カメラ」にある。これをオフにすることで、マルウエアや不正アプリなどもカメラにアクセスできなくなる。
最近では、テレビ電話用や撮影用などでカメラを内蔵したPCやWindows搭載タブレットも多い。不正侵入や盗撮に悪用されたり、監視に使われたりするため、カメラがオンになっている状態を好まないビジネスユーザーも少なくないという。ビジネス向けのPCではフロントカメラに開閉できるカバーを付けた機種や、レンズ部に付けるスライドカバーなどのアクセサリーも販売されている。RS4のカメラ機能に対する改良は、こうしたビジネス現場での声に対応したものと言える。
(5)その他、企業向けの変更点
その他にも、マルチGPU搭載PCで利用GPUを指定する機能、映像のダイナミックレンジを上げるHDR機能搭載ディスプレーへの対応、仮想化環境「Hyper-V」への管理用APIの追加などがある。ここでは企業で有用な2つの機能を紹介する。
企業などで多数のマシンを導入する場合に便利なのが、あらかじめ作成したスクリプトを初期設定時に実行する「Enterprise Install」機能だ。具体的には、インストールやWindowsの初期設定処理の前と後に任意のスクリプトを実行できる。これにより、利用環境や企業独自の設定に応じたカスタマイズを自動で施せる。インストール作業自体が失敗したときに実行するスクリプトの指定も可能という。
セキュリティ面では、細かい点だがWindows 10 Enterprise版のRS3から利用可能な仮想ブラウザー機能「Windows Defender Application Guard(WDAG)」が強化された。現在のWDAGでは、Edgeブラウザーでのファイルのダウンロードは一律禁止となっているが、RS4では許可できるようにした。